連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」8話目 


* story *
「待たせたな。売店が混んでてよ、遅くなっちまった」
剛田が、買ったアイスクリームを右手に小走りで戻って来た。
新川の右に、ベンチを軋しませドカリと座る。
「先輩〜せっかく買ったアイスクリームが落ちちゃいますよぉ〜」
新川は、笑いながら剛田が持っているアイスクリームを指差した。後に続いて井澄もくすくすと笑う。
「うっせい!おめえみたいなおっちょこちょいに言われたかねーよ」
剛田はアイスにバクバクとかぶりつきながら横目で新川を睨んでいる。
「フフッ、井澄さぁん先輩ったら子供みたいでしょ?」
新川がニコニコ笑いながら井澄に言うと、井澄も両手で口を押さえながらクスクスと笑った。
「おいおい・・・んなこたねぇよ。変なことを言うなよ新米、井澄が誤
 解しちゃうだろがぁ。それよりもおまえ、体調はもう大丈夫なのか」
何気に剛田は新川の体を気遣っている。
「えぇ、嘘みたいに気分が良くなりました!
 井澄さんが心配してくれたおかげです」新川は頭をかきながら、チラッと井澄の顔を見た。
「あら、私だけじゃないでしょ、剛田さんも心配なさってましたよ」
と井澄は顔を少し赤くしながら下を向いてスカートのひだを両手でつかんでモジモジし始めた。
「そうか!良かったじゃねぇか(新米、今さっきのは結構良い線いってたぞ。その調子でどんどん進んでいけ!・・まぁ、おまえの体調が良くなったのは俺のおかげってことは忘れないで欲しいぜ・・)」
剛田は喜んでいる反面、どこか寂しい気持ちもあった。

しばらく3人は乗り物に乗らずにベンチに座って話をしていた。
「へぇ〜井澄さんはお菓子も作れるんだね、凄いや」
「うふふっ、今度お二人のために何か作って持って来ますね」
「わぁ〜楽しみだなぁ!」新川と井澄がお菓子の話で盛り上がっているとき、アイスを食べ終わった剛田が「うっ!」と唸っていきなり腹を押さえて苦しみ出した。
「せっ、先輩!どうしたんですか」
「剛田さんっ大丈夫?」
びっくりした二人は立ち上がり、剛田の前にしゃがみ込んだ。
「うっ、うぅぅぅ・・腹が痛ェ」
「アイスがいけなかったのかしら」と井澄が心配そうに言う。
「僕、胃薬持っていますから飲んでください」
新川も、腹を抱えて苦しんでいる剛田に気が気でない。
「うぅ・・・ありがとさん。でも先にトイレに行って来るわ」
剛田はベンチに手をかけながら立ち上る。
「僕も一緒に行きましょうか?」
「馬鹿野郎、下痢に決まってるんだから一人で行かせろ。俺は大丈夫だ
 から気にせず二人で先に何か乗って遊んどいてくれ」
「いえ、剛田さんが戻って来るまでここで待ってます。心配で乗り物
 なんて乗れやしません。ねえ、新川さん」と井澄が言い、
「そうですよ、井澄さんの言う通りです。
 戻って来るまで待ってますからね」と新川も頷く。
「そうか、二人ともありがとうよ。ほんじゃま、行って来るわ!」
剛田は腹を抱えながらトイレに向かってヨタヨタと走って行った。
しばらく待っていたが、剛田はなかなか戻って来ない。
「先輩、遅いなあ・・僕、だんだん心配になってきた」
「ええ、私も心配です」
その後二人は話すことも無くなり黙り込んでしまった。
こんな状況で2人きりになると何を話せばいいのかわからなくなる。
新川はリラックスして放り出していた足を、今ではピシッと閉じて太ももの上にこぶしを置いて固まっている。
(あぁ〜何にも会話が無くなっちゃったよぉ!先輩早く戻ってきてぇ)
新川が頭の中で必死に剛田に助けを求めていたとき、井澄が沈黙をビリッと破った。
「新川くんと剛田さんって、仲がよろしいのですね」
いきなりだったので新川は驚き、ベンチからずり落ちそうになった。
「うわっ・・たはは、先輩はよく僕の面倒を見てくれるんですよ」
新川は気づかれないように素早く座りなおし、いかにもリラックスしていますよと言わんばかりにベンチにもたれながら答えた。
「正直最初にお会いしたときには恐そうな人だなと思ったんですが、
 でも厳しい中に優しさがあって、まるで海のように広い心を持ってお
 られるんだなあって思うようになりました」
(海のような広い心・・・そうだ、先輩はいつも優しかった)
新川は晴れた空を見つめながら剛田とのいろいろな思い出をポツポツと井澄に語り始めていた。
「まぁ!新川さんて剛田さんのこと、まるでお兄さんのように思ってい
 らっしゃるんですね」
「はは、よくみんなからも言われるんだよ。おまえらは本当に兄弟みた
 いに仲がいいってね」新川は照れ臭そうに頭をかいて笑った。
「・・・羨ましい」
「え?」
新川は首を傾げ、少し寂しげな顔をした井澄を見た。
「私には、お兄さんに思える人どころか友達が無いんです」
「えぇ?嘘でしょ!君はいつも楽しくて明るい人なのに」
「私は小さいときから何故か友達が出来ないんです。理由は自分でもわ かりませんが」
遠い目をして、動く観覧車をぼんやり見ている井澄が、新川はたまらなく可哀相になった。
「君の良さをみんな知らないだけだよ。少なくても僕と先輩は君の友達
 だよ。君は明るくて優しくて思いやりのある素敵な人だ」
新川の優しさが胸にジンと沁み、嬉しさが込み上げて来る。
井澄は微笑みながら「ありがとう」と答えた。



「へへ〜ん、腹痛は真っ赤な嘘だよぉ〜ん。
 おまえと井澄をくっつけさせる作戦に決まっているだろうが」
剛田はべっと舌を出してから、トイレには向かわず新川達の姿が良く見える植え込みの中に身を隠した。
「おぉ〜っ、いいムードだぜぇ〜・・・
 お!そこだ、そこぉ。ほら、もっとダイナミックに行け!!」
カモフラージュのつもりか、へし折った木の枝を両手に持ってぶつぶつ独り言を言っている剛田は側を通る人達にとって怪しい人以外の何者でもない。
「ママ〜、あの人変」と子供が指を指す。
「見ちゃダメッ!」慌てた母親が子供の手を引っ張り逃げて行った。


電子出版「大人の絵本 クロド」 著者:白河甚平

電子出版「短編集 闇の中の住人」 著者:樋口裕子


コメント


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[2007/03/25]


charlesさんへ
オチは、そういうことです。
先が楽しみだよね〜☆
[2007/03/26]管理人(甚平)